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プロフィール

1965年生まれ。東京都出身。東京大学文学部卒。

89年、大河ドラマ「春日局」で俳優デビュー後、『アンフェア』や『カイジ』など多くの映画やドラマで活躍。2013年の『半沢直樹』(TBS系)では、主人公の敵役、大和田常務を熱演。その圧倒的な演技で一大ムーブメントを巻き起こした。

また2011年には九代目市川中車を襲名。現在、俳優業と並行して歌舞伎役者としても活動している。
香川照之

第9回は、数多くの映画やドラマに出演され、近年は俳優業だけでなく歌舞伎役者・九代目市川中車としてもご活躍の香川照之さんです。

ディスコ全盛時代に六本木デビュー。 大人になるための、憧れの街だった。

僕にとって六本木の最初の思い出はやはり、80年代の終わりから90年代初頭でしょうか。大学を出たてのころで、いわゆるディスコと呼ばれる場所が全盛だった時代。遊び慣れた友達に連れられて『スクエアビル』に通っていました。渋谷から車で行って最初の信号(六本木交差点)を右に曲がった辺りが、一番濃密な場所だった記憶があります。高校までは勉強ばっかりしていて、それこそ『アマンド』があることくらいしか知らなかったので(笑)、わりと遅い六本木デビューでした。  

ディスコに行っては踊るでもなくぼんやり観ていたり、ただただ煌びやかで、それを眺めて楽しんでいた感じです。  

なぜだか分らないけれど、あの頃はとにかく六本木に行こう、行かなきゃ始まらないみたいなところがありましたよね。渋谷ではまだ子供、というか(笑)。"六本木に行かないと二十歳(ハタチ)になってない"なんてイメージがあったくらいだったような記憶が、今の大学生はどうなんでしょうね。  

六本木の街を夜な夜な徘徊して、それだけで不思議な、キラキラとした夢のようなものがありました。歩いているだけで何かに向かっている、何かに出会えるような感覚があった気がします。僕は派手にお酒を飲んで騒ぐタイプではなかったけれど、そんな自分にとっても遊ばせてくれる街という、"遊びの聖地"みたいな場所だったんです。

俳優になって再び訪れた六本木。 ヒルズは仕事と深く結びついた存在に。

俳優の仕事を始めてからは、『六本木ヒルズ』が一番馴染みのある場所になっています。映画祭(『東京国際映画祭』)の会場なので、グリーンカーペットを歩いたり、審査員として来日した海外の監督や俳優と対談したり、とにかく映画祭のイメージが強いですね。  

また映画館の『TOHOシネマズ』にも新作の舞台挨拶で何度も通っています。いつも映画館に併設された『カーテンコール』というカフェでスタンバイして、挨拶をするのが決まりになっているんです。  個人的に観に行くのもここの映画館が便利がよくて好きですね。席も事前に予約できるし、スクリーンも観やすくて気に入っています。今日は1日映画を観ようと決めた日などは、ずっと映画館に詰めている時もあるんですよ。  

取材を受ける際に、有楽町や銀座、虎ノ門などのホテルの部屋を利用させていただく機会が多いのですが、その中でもヒルズの『グランド ハイアット 東京』が一番好きかもしれません。ベージュ系の色合いと天然木でまとめられた室内のインテリアがとても落ち着くんです。都内で個人的に泊まりに行くとしてもきっとここを選ぶと思います。  お店だったら六本木通り沿いにあるバー『カスク』。いいウイスキーがとにかく揃っていて、おすすめですよ。  

そうそう、六本木のエピソードといえば、これは大人になってから聞いた話しですが、僕が生まれる頃、免許を取ったばかりの父(二代目 市川猿翁)が車で遊びに行って、六本木交差点の電柱に激突して六本木中を停電させたことがあったらしいです。これは歌舞伎界の伝説になっていますが(笑)。

今はどこも“個室”流行り。人との出会いこそ、店や街の魅力なのにね。

最近の六本木の街は、『六本木ヒルズ』をはじめタテにタテに、ニョキニョキ伸びている印象があるので、もっとヨコに広がりのある、低層階の作りの施設が増えるといいなと思います。たとえば僕は最近、代官山の『蔦屋書店』が好きでよく行くのですが、自由に読書ができるなど営利目的だけでないところや、そもそも時代に逆境すると言っていい「本」というアナログなものを新たな視点で紹介する姿勢にとても惹かれます。街に溶け込む2階建ての作りも好きですね。  

六本木にも、歴史あるバーや料理店が築いた夜の街という一面だけでなく、今後はそんな"昼の顔"ができたらいいんじゃないかな。たとえば"渋谷から車で行って六本木交差点を右に曲がった、一番濃密な"あの界隈に美術館や『蔦屋書店』のような本屋さんができたら。カルチャーを発信する新たな空間が、六本木をさらにキラキラとした街にしていくのではないかと思います。

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