六本木に出入りするようになったのは、大学進学で上京した頃、今から36、7年前のことです。それから'70年代に明治屋さんの隣のビルに仕事場を構えて以来、誘われたようにずっとこの界隈に住んでいます。バブルの頃に周りがザワザワし始めて、一時期アークヒルズに移ったんですが、今は再び六本木に。なぜこの街が好きかというと、いくら変わってしまったとはいえ、僕が初めて遊びに来た頃の雰囲気がまだあちこちに残ってるからです。だから20代の頃の感覚にすぐ戻れるというか、当時の自分と共存している感じがするんですね。
それから、六本木には不思議な、というか独特のムードがあるんですよ。例えばムッシュ(かまやつひろし氏)との出会いは、'80年にジョン・レノンが亡くなった次の日、六本木のレストランのトイレに入ったら偶然彼がいて、そのときはまだ会釈する程度の顔見知りだったのに、僕からいきなり挨拶も主語も無しに「いやな世の中ですね」と話しかけたの。そしたら「いやですねぇ」と。トイレで並びながらの自己紹介。それがきっかけだったんです。
某大物女性演歌歌手の方とも、天ぷらの『魚新』でお会いしたときに、酔った勢いで「歌いに行きましょう!」って、誘っちゃった(笑)。歌ってもらったのも感激だけど、僕の番のときには後ろからコーラスをかぶせて下さったの。最高でしょ? こんなふうに「六本木」という分母の上に乗っかっただけで、お互いに許せるというか、それだけで親しくなれるムードがあるんです。何度も同じお店に通っているうちに、いつの間にかお互いに会釈しあって、ちょっと一杯やる?_となっていく。つまり良い意味での不良性がお互いに確認できちゃったら、もう仁義切らなくて済んじゃうみたいなね。お互いの心の内を探りあう、まさに“ジャズ”のような雰囲気があったんですよ。今は残念ながら少し薄れてしまったのかもしれないですけどね。